おしか婆さんのお手紙にはいつもびっくりさせられます。
「おまえと一緒に修行していたことねがまいっているらしいので、おぼこのあきちゃんおまえが行ってカツを入れて来てくれ」というお手紙です。張本さんじゃあるまいし、どうしましょうかね。何でも社長にいってあるらしいので、2、3日休んで、古川温泉に行くことになりました。
ことねちゃんのおでこにカツというシールをつけるわけですから2、3枚用意しておきますか。
よく話を聞いてからにしますけど、話によっては、やりますよ。
修行に入る前の日、おしかばあさんに言われて、私は、化粧道具一式を、ことねは持ってきた楽器と楽譜を豊沢川に捨てたんです。もうやるしかないねといった友が待っているようです。
赤谷川の源流域にある一軒宿を父、母が守ってきた宿です。原始林に囲まれた露天風呂は、本当に素晴らしいものです。その秘湯の宿を守ることを決めたことねです。早く行ってやりたいです。
猿ヶ京手前のバス停で降りると、車が止まっておりました。車から降りてきたのは、お父さんとぷくぷく太ったことねでした。
おぼこのあきちゃん、元気でしたか。
はい、私は元気よ。ことねはどうしたの。
はい、母が亡くなったんです。さびしくって、ついおしか婆さんに手紙を書いてしまったの。
そうだったのね、ことね。
今日は、宿に行って修業時代にやった、つらい時ほど徹底的におそうじをしましょうよ。
どこまでも、お客様のためにきれいに磨きをかけましょう。リュックには、お掃除道具が入っているのよ。
日本一きれいなことね旅館にしますよ。ことね、いいかい。
はい、おぼこのあきちゃん。
ことね、おしかばあさんなら、同じようにしますかね。
やっぱり、おぼこのあきちゃんは、おしかばあさんの一番弟子です。
おしか婆さんは、ことねのこと、亡くなったお母さんと同じ思いでいるから、何かあったら連絡してあげてください。そしたら、私も来ますね。
ことねも、お父さんやお母さん、そしておしか婆さん、それに私も、ことねのこといつも思っているのよ。助け合って生きてきた二人ですもの。これからも、切磋琢磨して、ことねは、日本一の秘湯の宿に、私は、日本一の薬屋さんになるよう、がんばりましょうね。
さあ、朝までお掃除ですよ。ことね。
ありがとう、おぼこのあきちゃん。
いつ来てもきれいなお寺です。聞修院の奥に黒沢川の源流域があるようです。また今度行ってみたいと思います。
今日は、古民家のようなお家が建ちますようにと、ことねが元気になりますようにお願いしてきます。